Suicaの新キャラクター3案を見て、キャラクターデザイナーとして考えたこと
2026年9月8日、JR東日本が「Suicaのペンギン」に代わる新たなイメージキャラクターの候補3案を発表しました。

2001年のSuica誕生以来、25年以上にわたって親しまれてきたSuicaのペンギン。
2027年3月31日をもって卒業し、翌4月から新しいキャラクターへバトンタッチすることが決まっています。
今回発表された3案から一般投票によって新キャラクターが決定するということで、SNSでも大きな話題になっています。
そして正直に言うと、私自身も発表された3案を見たとき、
「…あれ?」
というのが最初の印象でした。
SNSでも「ペンギンを返して」「これなら今のままでよかった」といった戸惑いの声が多く見られています。もちろん、それぞれのキャラクターを支持する声もありますが、少なくとも発表直後の反応としては、期待より困惑のほうが大きかったように感じます。
キャラクターデザイナーとして、今回の3案を見て感じたことを書いてみたいと思います。
そもそも、Suicaのペンギンという存在が強すぎる
今回の新キャラクターを考えるうえで、どうしても避けられないのが「Suicaのペンギン」の存在です。
ペンギンは非常にシンプルなデザインです。
黒と白を基調とした身体。
丸いフォルム。
シンプルな目とくちばし。
情報量は決して多くありません。
それでも、
- 一目で認識できる
- 小さく表示しても分かる
- グッズになってもかわいい
- どんなポーズをしても成立する
- 子どもから大人まで受け入れやすい
など、キャラクターとして非常に完成度が高いと感じます。
何より、「なんとなく好き」と思わせる力がある。
キャラクターは必ずしも複雑な設定や派手なデザインが必要なわけではありません。
むしろ、長く愛されるキャラクターほど、シンプルでありながら絶妙なバランスで成り立っていることがあります。
Suicaのペンギンは、その代表的な存在だったのではないでしょうか。
だからこそ、その後継キャラクターには非常に高いハードルがあります。
なぜ、この3案になったのだろう?
今回の新キャラクターは一般公募ではありません。
一般公募にしてもらえれば私も参加できたのですが、そこは残念です。
JR東日本グループ社員から新キャラクターに期待する役割や想いを集め、それをもとに選考委員会が指名した若手クリエイターが原案を制作。
その中から選考委員会によって3案が選ばれ、現在一般投票が行われています。
つまり、今回公開された3案は単純に「若手クリエイターが自由に作った3作品」というわけではなく、そこにはJR東日本や選考委員会によるディレクションや選考があったはずです。
だから個人的には、
「若手クリエイターのデザインだからこうなった」
というよりも、
「なぜSuicaの次の顔として、この3案が選ばれたのか」
という部分が気になります。
3案に共通して感じる「シンプルさ」
3案を並べて見ていて、個人的に気になったことがあります。
それは、どのキャラクターも非常にシンプルなデザインであることです。
- メインカラーが強く限定されている
- 色数が少ない
- 造形がシンプル
- 細かいディテールが少ない
という共通点があります。
もしかすると、
- 小さなアイコンでも認識しやすい
- デジタルサービスに展開しやすい
- グッズや広告など幅広い媒体で使いやすい
といったことを意識しているのかもしれません。
キャラクターにとって「シンプルさ」は非常に重要です。
しかし、
シンプルであることと、魅力が少ないことは違います。
Suicaのペンギンも非常にシンプルです。
それでも、単純ではありません。
頭身、目の位置、くちばしの大きさ、身体のバランス、黒と白の面積。
ひとつひとつはシンプルでも、そのバランスが非常に洗練されています。
今回の3案を見ていて感じたのは、もしかすると「シンプルにすること」そのものが強く意識されていたのではないか、ということです。
キャラクターというより「作品」に近く感じた
今回の3案は、それぞれ個性的です。
しかし個人的には、
「Suicaのキャラクター」よりも「クリエイターの作品」
という印象を少し強く受けました。
特に中央の紫色のキャラクターは、海外のアニメーションやデジタルコンテンツに登場しそうな雰囲気があります。
もちろん、それが悪いというわけではありません。
ただ、日本で長年親しまれてきたSuicaのペンギンから交代するキャラクターとして考えると、少し違和感を覚えました。
「新しい」「個性的」ということと、「長く愛される」ということは必ずしも同じではありません。
企業やサービスのキャラクターには、作者の個性だけでなく、
企業のブランドやサービスの世界観の中で、長く生き続けられる普遍性
も必要だと思います。
なぜ人気のSuicaのペンギンを卒業させるのか
そもそも、多くの人が疑問に思っているのがここではないでしょうか。
「あんなに人気なのに、なぜ変えるの?」
JR東日本はSuicaを、これまでの「移動と少額決済のデバイス」から、より幅広いサービスにつながる「生活のデバイス」へ進化させる「Suica Renaissance」を進めています。
その進化を象徴する存在として、新しいキャラクターが必要になったというのが公式な説明です。
一方で、Suicaのペンギンには権利関係という側面もあります。
Suicaのペンギンは作者・坂崎千春さん、JR東日本、電通の3者が共同で権利を持つキャラクターです。JR東日本もこの点を認めています。
JR東日本が「権利問題を理由に卒業させる」と公式に発表しているわけではありません。
ただ、今後Suicaをさらに幅広いサービスへ展開していくことを考えると、キャラクターIPをどのように管理し、活用していくのかは非常に重要なテーマになるはずです。
キャラクターは、かわいいデザインを作って終わりではありません。
その後、
- グッズ展開
- 広告
- アプリ
- デジタルサービス
- 海外展開
- 新しい技術への対応
など、長期間にわたって活用されます。
キャラクターデザインにおいて、著作権や権利関係も非常に重要だということを改めて感じます。
でも、これだけ話題になっていることは悪いことではない
今回、SNSではかなり多くの意見が出ています。
否定的な声もあります。
戸惑いの声もあります。
しかし、私はこの状況自体は決して悪いことではないと思っています。
なぜなら、キャラクターに対して多くの人が興味を持ち、語っているからです。
思い出すのは、大阪・関西万博のミャクミャクです。
発表当初は、その独特なデザインに対してさまざまな意見がありました。
「怖い」
「気持ち悪い」
「かわいくない」
そんな声も決して少なくありませんでした。
しかし結果的に、ミャクミャクは多くの人に愛される人気キャラクターになりました。
最初の印象だけでは、キャラクターの未来は分からない。
キャラクターはデザインが完成した瞬間にすべてが決まるわけではなく、
- 名前がつく
- 性格が生まれる
- ポーズが増える
- グッズになる
- イベントに登場する
- 人々との思い出が積み重なる
ことで、少しずつ育っていきます。
「かわいい」と思えなかった第一印象が変わる可能性もある
今回の3案について、私は正直、第一印象で強く「かわいい」とは思えませんでした。
ただ、それはあくまで現時点での印象です。
まだ名前もありません。
性格も分かりません。
どんな動きをするのかも分かりません。
グッズになったとき、アニメーションになったとき、駅や街の中で見かけるようになったとき。
印象は大きく変わるかもしれません。
そして、その変化を生み出すのもキャラクターの力だと思います。
キャラクターは、人との関係の中で育っていく
キャラクターデザイナーとして、もちろん「見た瞬間にかわいいと思ってもらえること」は大切だと思っています。
第一印象は重要です。
しかし、キャラクターの魅力はデザインだけで決まるものではありません。
長く愛されるキャラクターになるためには、
人々との時間や関係性の中で愛着を育てていくこと
も必要です。
今回のSuica新キャラクターが、発表直後の戸惑いを乗り越え、数年後には多くの人に愛される存在になっているのか。
それとも、やはりSuicaのペンギンという存在の大きさを改めて感じることになるのか。
キャラクターデザイナーとして、そして一人の利用者としても、これからの展開を見守っていきたいと思います。
まとめ
正直なところ、今回の3案を最初に見たときは驚きました。
「Suicaの次のキャラクターがこれなのか?」
そんな気持ちもありました。
しかし、だからこそ多くの人が話題にし、意見を交わしています。
キャラクターにとって、無関心でいられることよりも、好き嫌いを含めて感情を動かすことは大切なのかもしれません。
そして、ミャクミャクのように、最初は違和感を覚えたキャラクターが、いつの間にか身近な存在になっていることもあります。
今回のSuica新キャラクターも、これからどのように育っていくのでしょうか。
その答えが分かるのは、もう少し先かもしれません。

